白木蓮の花びらが空の青によく映える

艶やかなしろい花びらは

穏やかなひざしによくにあう

ことしも別れと出会いのきせつがめぐってくる

 

木蓮が好きだ。木蓮も好きだけれど、白木蓮の上品な艶やかしさに毎年惚れ惚れしてしまう。もう少ししたら桜が咲いて、次に躑躅が咲いて、春が来るのだろう。

横浜の寒さは慣れなくて、静岡に帰りたいと思ってばかりいる。完全なるホームシックだ。天候というのは人の心に影響があるのだということを思い知らされている。雨が多くて寒い街。偶の晴れ間を喜びつつ、温暖な地で暮らしたいと願っている。

 

薄ら寒い曇り空

数日前まで春みたいな陽気だったのに

きゅうに冬にもどってしまった

そうだ、ここは寒い地域だということをすっかりわすれていた

 

2月中には引越による部屋の片付けを終わらせようと思っていたのにまったくはかどらない。2月には実際の日数も短いけれど、体感としての時間の流れも早い気がする。

はやく春がくればいい。近所の川には桜並木があるので、開花を心待ちにしている。

深い紺色に鋭い三日月が浮かんでいる

鋭利な三日月はいつも見惚れてしまう

凛としていてうつくしく、どこか安心感さえある

 

うまくいかない日々も続く、それでも自分で選んだのだからと覚悟を決める。切羽詰まった空気の中で、なんとかやっていこうとする。

引越の手続きで役所へ。相変わらず役所のことが何もわからない。手続きがスムーズに終わったことがない。こういう時、ふつうの人と思考回路が異なるのだろうなと毎回思う。多くの人が使う場所のインターフェイスが自分にまったく馴染まないのだと理解したのは一人暮らしが4年目になった頃で、これは自分でどうすることもできないと腑に落ちた。最初は絶望的な気持ちにもなったけれど、そういうものだと受け入れて、しょうがないなら対策をしよう、という感じで今はなんとかやっている。

そして毎回、自分の馴染まなさを思い知りながら、なんとか乗り切っていることに安堵と少しの自信を覚える。なんとかなるし、なんとかできる。歳を重ねてよかったことは、子供の頃は不出来なことにいちいち傷ついていたけれど、なんとかなるとわかるようになったことだ。不出来で不得手でも、もちろん完璧はむりだけれど、なんとかなる。それを知っている。

鮮やかな青、映える雪山

あまりにあざやかなあお、そしてしろいやま。

 

静岡県三島市というところに住んでいた。昨日まで。昨日引越をして今は神奈川に住んでいる。引越の時には何かしらイベントを組み込むようにしている。1人で引越作業をするのは、少し心に負担が大きいからだ。というわけでホテルをとった。引越日の次の日が退去手続きの立ち合いだったので、せっかくなら一泊しようと計画した。掃除をしに旧居に来るつもりだったので丁度いい。どうせなら少し足を伸ばして伊豆や熱海などに泊まりたかったのだけど、旧居の掃除と退去手続きもある。とうわけで三島のドーミーインに泊まることにした。ビジネスホテルなのに露天風呂があるホテルだ。

温泉を堪能して一泊しチェックアウトをする。退去手続きまで時間があるので三島大社へお参りをする。三島は著名な観光地というわけではないけれど、あちこちにお土産屋がある程度には観光で訪れる人がいる。三島大社はいつもより賑わっていて、参拝者の列ができていた。日々、平日に散歩ついでに参拝していたので観光客が多いことに驚いた。三島で暮らした日々にお礼を、そして今不安な方々に平和が訪れますようにと祈った。

とても天気のいい日だった。透き通った青色の空、どっしりと佇む白い富士山。美しいなと思う。

三島の隣の沼津というところで生まれ育ったので、当たり前のように富士山を見て育った。だからか富士山の良さがあまりわからなかった。隣の家の壁、みたいな感覚だった。沼津を離れて10年近く、三島に来て3年、富士山の雄弁さを理解できるようになった気がする。美しいな、特にこの雪の積もった富士は。青い空によく映える。

都内で暮らしていると、空や木々の色に心を動かされることがあまりなかった。三島では、夏の薄い水色の低い空、冬の濃い青色の高い空、それに映える樹々たち、夏には深い緑色だったり冬には鮮やかな紅葉だったり。あぁ、雲の形も星の瞬きも美しかったな。それなりの都市部なのにそれでも自然が美しい。徒歩圏内に滝があるような地域だった。目の前の駅から新幹線に乗ってしまえば1時間もかからず都内に着いてしまうのに。いい場所だった。可能ならまた住みたいなと思っている。時期がきたらまた。

透明度が高くて陽射しがやわらかい 

ものをかたづける

20年ちかくまえにもらった品がでてきて

当時をおもいだす

それはじゅうぶんにうつくしい日々だったようにおもう

 

引越の準備をしている。仕事は雑誌がひとつ校了中。騒然とするスケジュール感。住む場所を変える、家ごと移動している気持ちになって、やどかりみたいだと思う。たくさんのものを手放したい。

淡いピンク色から薄紫のグラデーション

夜明けや夕暮れ前、空の色が嘘みたいな美しさ瞬間がある

それは数分で過ぎ去ってしまう

なにごともなかったかのように

朝がはじまり、夜がふける

しらないどこかで今日も美しいそらが降る

 

引越の準備をしている。2月の半ばにはこの場所から離れるのだなと思うといつも歩く景色が一層愛おしい。このところひどく寒かったからか富士山の白色が濃い。雪が高く積もっているのだろう。

数年後振り返った時に、この場所で暮らしたことはどんな意味になっているんだろう。穏やかでいい日々だったと思う。今後の生活に少しばかりの期待を馳せて。

雲間に綺麗な水色が見える

幸せになっていいのだということを

いつも忘れてしまう

罪も呪いもすべて解かして

晴れ間が見えたら遠くを見つめる

 

はてなブックマークパワハラの記事を読みたくて探していたら、ブラック企業の退職記事を見つけて、興味深く読んでいたのだけれど、いま自分が立っている場所の淀みから目を背けていたことに気づく。見ないふりをしていたことは薄っすらわかっていたけれど、直面しなければいいと思っていた。

虎の威を借る狐、として虎の毛皮を纏っていたけど、虎になんてなれなかったし、そもそも自分は狐なので、麗しい狐になればいいだけだったなと今ならわかる。